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睡眠は記憶を強化する

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スポーツや楽器の練習中、上手くできずにイライラしたことはありますか? そのような時は、こう思うとよさそうです。

「このあと眠れば上手くなるんだ」

練習をしたその日に上達しなかったのに、そしてその後練習していないにもかかわらず、2~3日後に突然上達している。このようなことが起こるのは、睡眠の効果だといいます。スポーツや楽器の技能に関する記憶は、「手続き記憶」と呼ばれています。つまり、手続き記憶は睡眠によって強化されると考えられているのです。

睡眠中に記憶が強化されることを最初に述べたのは、古代ローマ帝国の思想家クインティリアヌスだそうです。『睡眠の科学・改訂新版』には、クインティリアヌスの考察が以下のように記されています。

2000年以上も前に、すでに彼は次のように述べているのである。「うまく繰り返すことができなかったことも翌日に容易にできるようになっている。睡眠という、一見健忘を引き起こすと思われるときこそ、記憶を強化しているのだ」。

『睡眠の科学・改訂新版』(櫻井武/講談社/2017年)

この古代の考察を、櫻井武氏は「実に先見的な考察である」(同書)と記しています。現代の実験によって、このような睡眠の効果が確かめられているそうです。

では、どのような実験で確かめられているのでしょうか。今度は、内山真氏の『睡眠のはなし』の記述をご紹介しましょう。

イスラエルのワイツマン研究所の研究チームは、「視覚弁別課題」と呼ばれる不規則な図柄から一定のパターンをすばやく識別する技能をみるテストを作った。スポーツや楽器などの技能習得に相当する手続き記憶の習得をみるものだ。このテストを健康な若い人に行ってみたところ、集中的に練習すると成績は一定レベルまで向上するが、それ以上に次の日になると成績が向上することを発見した。

『睡眠のはなし』(内山真/中央公論新社/2014年)

同研究所のアピ・カルニ氏は、上記のような結果が出るのは睡眠中に何らかのプロセスが起きているからではないかと考え、さらに「視覚弁別課題」を用いた実験を行いました。その結果は、つぎのようなものだったそうです。夜に練習・睡眠をとる(翌朝、著しく成績が向上)、夜に練習・睡眠をとらない(翌朝、成績は向上しない)、朝に練習・日中眠らない(夜、成績は向上しない)。このような睡眠の効果を示す実験結果が出たといいます。

他にも、「手続き記憶」に関して、睡眠の効果を示す実験結果が報告されているそうです。

記憶はいくつかに分類されており、手続き記憶は「非宣言的記憶(非陳述記憶)」のひとつです。脳部位としては、大脳皮質、大脳基底核、小脳が主にかかわっているそうです。

これに対して、「宣言的記憶(陳述記憶)」と呼ばれる記憶があります。その名称のとおり言葉で説明できる記憶で、エピソード記憶(いつ・どこで・誰と・何をした、といった体験に関するもの)と意味記憶(場所や人の名前など)に分類されています。脳部位としては、海馬や大脳皮質が主にかかわっているそうです。

では、宣言的記憶(陳述記憶)も睡眠によって強化されるのでしょうか?

宣言的記憶の実験は難しいようです。

……宣言的記憶は意識が必要な記憶なので、そのときの気分や集中力に左右され、また個人差も大きいから評価が難しいのである。とくに睡眠は集中力に影響を与えるから、集中力が結果を大きく左右するような課題は好ましくない。……

『睡眠の科学・改訂新版』(櫻井武/講談社/2017年)

しかし、さまざまな実験が行われており、どうやら宣言的記憶も睡眠によって強化されると考えられているようです。かつて、つぎのような実験が行われました(ジェンキンス氏とダレンバック氏の実験)。

彼らは健康なヒトを対象に、アルファベットを組み合わせてつくった10の無意味な単語を午前10時に記憶させた。そのあとの1〜8時間を、覚醒している群と、就寝させた群をつくり、それぞれに覚えた無意味な単語を想起させるというテストを行った。その結果、睡眠をしていた群のほうが、覚醒していた群よりも単語の忘却がはるかに少なかったのである。

『睡眠の科学・改訂新版』(櫻井武/講談社/2017年)

他にも、宣言的記憶が睡眠によって強化されることを示す実験が報告されています。

まとめれば、睡眠は記憶を強化する、と言えるようです。とはいえ、スポーツや楽器の技能習得でも勉強でも、大切なのは起きているときの努力。もちろんこのことに変わりはありませんが、勉強や練習と同じくらい睡眠も大切にしましょう、というのが現代科学からのメッセージのようです。

参考文献
『睡眠の科学・改訂新版』(櫻井武/講談社/2017年)
『睡眠のはなし』(内山真/中央公論新社/2014年)

初出:2019年11月24日更新:2025年02月11日