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キャッチコピーの事例

村田製作所のキャッチコピー(1998~99年)を考察

キャッチコピーCase No.26 親しみ向上

キャッチコピーの事例を取り上げる第26回は、村田製作所のキャッチコピー(1998~99年)です。

恋する部品製作所

コピーライターは、安藤隆さん。

記憶に残っているキャッチコピーの一つですが、記憶は曖昧なもので、CMは「恋する部品 村田製作所」だと私はずっと思っていました。いまネットで確認してみたら、実際のCMは「恋する部品製作所 村田製作所」だったようです。「恋する部品」のインパクトが強くて、2回繰り返された製作所がひとつ抜け落ちて記憶されたのかもしれません。

CMはまったく覚えていなかったのですが、「恋する部品・パソコン」「恋する部品・携帯電話」「恋する部品・カーナビ」のCM内容を(東京コピーライターズクラブのWebサイトで)確認できました。読んでみると、部品が擬人化されていて、部品としてそれぞれの機器の中から持ち主にモノローグ的に話しかける形式になっています。

国際CCO交流研究所のWebサイトにある、元・村田製作所広報部長の大島幸男さんのPDF『BTOB企業のブランド構築戦略実践例』によると、「恋する部品製作所」は当時の村田製作所の広告展開の5ステップのうちの第3ステップ(「親しみ向上」)で使用されたキャッチコピーのひとつだそうです。第1ステップが『「村田製作所」の知名度浸透』、第2ステップが『認知度形成』、第3ステップが『親しみ向上』、第4ステップと第5ステップが『一流評価形成』で、それぞれのステップごとにキャッチコピーが作られています。第3ステップの「親しみ向上」で使用されたキャッチコピーには、「恋する部品製作所」のほかに、「だけど恋する部品製作所(1999〜2000)」「部品 Loves You.(2000〜01)」があります。

CMの内容は、部品が持ち主に好意をもっていたり、持ち主を思いやっていたりする感じがうまく演出されています。そのような部品に対して、持ち主は(普段の私たち同様に)機器の中の部品をまったく気にかけていませんので、片想い的なシチュエーションに似ていなくもないです。そのようなCMを繰り返し目にすれば、なんとなく親近感を持つようにもなりそうですね。「親しみ向上」という目的を果たせるCMだと思いますし、「恋する」「部品」という本来まったく結びつかない言葉の組み合わせがマッチしているようにも感じられます。

当コンテンツの目的は事例を集めて、キャッチコピーの型や作り方を自分なりに考えてみることですが、今回も「一般的な連想の範囲にない言葉の組み合わせを作る」という作り方の一例です。「恋する部品製作所」にインパクトがあるのは、「恋する」と「部品」がふつう同じ文で使われない組み合わせだからだと思います。そのようなギャップのある組み合わせがマッチするように、部品を擬人化してストーリーを作り出しているところも、キャッチコピー制作の参考になりそうです。

初出:2024年03月20日