SHiRUKOYA

お知らせ・ブログ はじめに

キャッチコピーの事例

TBSグループのキャッチコピー(ブランドメッセージ)を考察

キャッチコピーCase No.27 一つの言葉に二つの意味

キャッチコピーの事例を取り上げる第27回は、TBSグループのキャッチコピー(ブランドメッセージ)です。

ときめくときを。

今回は「韻を踏む」キャッチコピーの事例です。「とき」が繰り返されることによって耳に残りやすいメッセージになっています。

『AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議』というWebサイトの記事(見出し『TBSがブランドメッセージ「ときめくときを。」作成 新アニメともコラボ』)に、ブランドメッセージの作成に携わった方のコメントがあります。それによると、ブランド戦略のさらなる強化には「“タグライン”のようなメッセージ」が必要と考え、作成にあたっては、コピーライターが理念やプロミスに込められた思いをもとに具体案をいくつか作成し、グループ全社員にアンケートをとって意見を聞いた上で、判断・決定したそうです。

2024年4月現在、TBSホールディングスのWebサイト(「ブランドステートメント」)には、つぎのようなブランドプロミスが掲載されています。『私たちは、さまざまなフィールドで心揺さぶる時を届け、社会を動かす起点を目指します。最高の“時”で、明日の世界をつくる。from TBS』(『最高の“時”で、明日の世界をつくる。』の文字が大きく書かれ、強調されています。)

同ページにはブランドメッセージ『ときめくときを。』も記されています。それに込められた思いについては、こう述べられています。『「今を時めく」時代を捉えたコンテンツとサービスで、「心、ときめく」ときをお届けし、より良い世界をつくっていく、というTBSグループの普遍的な約束と志を込めています。』

「ときめく」には、「今を時めく」「心、ときめく」という2つの意味が含まれていて、よく考えられていることがわかります。このように2つの意味が込められているところが、このキャッチコピーの良さだと思います。

ブランドプロミスとメッセージを照らし合わせてみると、ブランドプロミスの『最高の“時”で、明日の世界をつくる。』は、その前に書かれた『心揺さぶる時を届け、社会を動かす起点を目指します。』や、メッセージに込められた『「心、ときめく」ときをお届けし、より良い世界をつくっていく』と同様の趣旨であることがわかります。つまり、(『最高の“時”』は抽象的なので)ブランドプロミスの『心揺さぶる時』が、メッセージでは『「心、ときめく」とき』と表現されたと考えられます。

コピーライターの方の実際の思考過程はわかりませんが、「心揺さぶる」から、心が動かされている様子、感情、そういうものに思いを巡らせたときに、「ときめく」という言葉が浮かんだのかなと思いました。あくまで憶測に過ぎませんが、もしかしたらコピーライターの方は、「時(とき)」で韻を踏みたいと思っていたのかもしれません。ブランドプロミスで『最高の“時”』と「“時”」が強調されていますので、この言葉はキーワードとして考えの中核にありそうです。

「韻を踏む」名作コピーはたくさんあり、「韻を踏む」というのはキャッチコピー作成のテクニックの一つと言えます。想像になりますが、「とき」が含まれる言葉を前提として、心揺さぶる、心が動かされている様子、感情、といった類のワードをピックアップしていけば、「ときめく」という言葉はおそらく思い浮かぶでしょう。ブランドプロミスの「……心揺さぶる時を届け」を「……ときめく時を届け」と表現できるという考えは生まれそうです。この時点では、「ときめくときを」が案として浮かんでいますが、まだ候補の一つくらいの感じでしょうか。でも、ここで、「ときめく」から「(今を)時めく」が連想され、上述したような『「今を時めく」時代を捉えたコンテンツ……』と説明できると閃いたとしたら? これは良いアイデアだと思うのではないでしょうか。これが閃くかどうかが、このメッセージにたどり着けるかどうかのポイントのような気がします。

繰り返しますが、これは私の想像であり、コピーライターの方の実際の思考過程ではありません。実際どのように考えられたのかは知る由もありません。

当コンテンツの目的はキャッチコピー作成の本質的なものを探ることではなく、あくまで型(パターン)やアイデアを膨らませる方法を自分なりに探してみることです。そのような趣旨のもと、今回は実際のブランドプロミスをもとに、どのように考えれば採用されたブランドメッセージにたどり着けるかを想像し、「韻を踏む」というテクニックを念頭におくことはキャッチコピー制作に役立つのではないか、ということを考えてみました。1つのフレーズに2つの意味を込められるかどうか、言葉の連想を大切にしたいと思わせられる事例でもありました。

なお、検索しましたが、コピーライターはどなたかわかりませんでした。わかれば追記します。

初出:2024年04月11日