【ブックレビュー】『日本語練習帳』(大野晋/著)
1999年に出版され、当時ベストセラーとなった一冊。2024年11月現在においてもAmazonで新品を購入できますので、長年読み継がれてきたロングセラーとも言えます。
本書は、国語学の第一人者によって書かれた、読み書きする上での考え方や技を身につけることができる「練習帳」です。しかし「練習帳」といっても、ただ問題と解答が繰り返されているわけではありません。問題を解かずに読み進めることもできる本です。著者は「まえがき」に、つぎのように記しています。
ひととおり読むだけでもこの本は日本語の理解と表現のために役に立つところがあると思います。ゆっくりと辛抱強く、練習問題に答え、また作業をしていくと、その人が本来もっている言語の能力がきっと引き出されてくる。……
五つの章からなる本書の構成は、大まかに書くとこんな感じです。まず、「単語の形と意味に敏感に」なる練習から始まります。たとえば、「思う」と「考える」はどう違うのか、「通る」と「通じる」はどこが違うのか、「最良の」と「最善の」の使い分けなど、さまざまな練習問題とその解説があります。つぎに、文法のうち著者が大切と思う、「は」と「が」を取り上げます。三つめの章では、練習問題は「ひと休み」にして、文章を書く上での著者の心得を二つ述べています。そのつぎは、「文章の骨格」をつかむ練習です。これは、新聞の社説を縮約・要約する練習と、小説の要点をとる練習があります。最後は、「敬語の基本」に関する解説です。各章には、「お茶を一杯」というかたちで、興味をそそるコラムが挿入されています。
巻末には配点表があります。すべての練習問題に取り組んでその点数を数えると、「自分の現在の日本語の技能はどのくらいか、およそ見当がつけられる」ようになっています。
社説の縮約・要約は、読み書きの能力を鍛えたい人にとっては、取り組む価値がある練習だと思います。本書では、縮約と要約の違いについて、どのように作業すべきかを丁寧に説明しています。
国語学を追究してきた著者の解説には深みがあり、それが本書の魅力だと思います。言葉にもっと「敏感に」なりたい、そのような意欲をかきたてられる本ではないでしょうか。