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睡眠

金縛りの科学的説明とは

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意識がはっきりしているのに身体は動かず、その状態で幻覚を感じる。このような「金縛り」状態は、科学的に説明可能なようです。

金縛りは、医学用語では「睡眠麻痺」と呼ばれており、「入眠時型」と「出眠時型」があるそうです。

『睡眠の科学・改訂新版』に金縛りの科学的な説明が出てきますので、その記述をご紹介したいと思います。引用するのは、ナルコレプシーの「入眠時幻覚」という症状について解説している箇所です。解説の途中から抜粋しますので、先に補足します。

通常の睡眠は、覚醒から「ノンレム睡眠」に入り、それが長く続いてから「レム睡眠」に移行します。ところが、ナルコレプシー患者さんは寝入りばなに「レム睡眠」に入ってしまうことがあるそうです。レム睡眠のときに、私たちはあのストーリーがある鮮明な夢を見ています。

それから引用箇所には、「前頭前野背外側部」という脳部位が出てきますが、ここには「作業記憶(ワーキングメモリー)」という機能があるそうです。「作業記憶は論理的な思考に必要なものであり、その機能は意識や知能、認知と密接な関係があるといわれている」(『睡眠の科学・改訂新版』)。これは、同書のコラムに書かれています。

補足がすこし長くなりましたが、『睡眠の科学・改訂新版』の「金縛り」状態について述べられている記述をご紹介します。つぎのように記されています。

……覚醒状態から突然にレム睡眠のような状態に入ってしまうと、前頭前野が活動している状態で夢を見ることになり、非常に鮮明な夢を見ることになる。
また、このとき多くの場合、通常のレム睡眠と同様に筋肉の力は完全に脱力状態にあるため、当人は「金縛り状態」(睡眠麻痺)を体験することになる。通常のレム睡眠では前頭前野背外側部の活動が低下しているため「金縛り」を実感できないが、ナルコレプシーでは前頭前野が活動しているので、その状態を実感することになる。このとき見る夢は……恐怖感をともなう内容が多く、しかもリアリティーに富んでいる。それに加えて金縛り状態になるため、非常な恐怖を感じる場合がある。

『睡眠の科学・改訂新版』(櫻井武/講談社/2017年)

つまり、「金縛り」という身体が動かない状態は、レム睡眠の状態にあるということですね。引用箇所にあるように、通常のレム睡眠では「筋肉の力は完全に脱力状態にあるため」、身体は動かない状態になっています。

金縛りで見る「幻覚」は、レム睡眠の際に見ている「夢」ということになります。夢は外部からの刺激がない状態で見ているものですね。幻覚も同様です。どちらも外部刺激がない状態、すなわち脳内の活動のみで生じているものです。レム睡眠の状態にあって夢を見ていれば、レム睡眠の状態にある金縛りにおいて「幻覚」が生じることになります。

身体が動かない状態であることも夢を見ることも、レム睡眠においては普通のことです。通常と異なるのは、レム睡眠中にもかかわらず、意識や認知に関係があるとされる脳部位の「前頭前野背外側部」が活動してしまうこと。

まとめれば、もしレム睡眠のときに、(通常とは異なり)前頭前野背外側部の活動が高まれば、「金縛り」を実感することになるようです。

金縛りにおける脳の活動状態について詳しく書かれているわけではありませので、他の要素もあるかもしれませんが、いずれにせよ科学的に説明可能なものであることがわかります。

私たちの脳、意識、睡眠という、ごく身近なものが不可思議なものであることが感じられます。

参考文献
『睡眠の科学・改訂新版』(櫻井武/講談社/2017年)
『眠る秘訣』(井上昌次郎/朝日新聞出版/2009年)

初出:2025年02月11日