私たちの生命活動において、睡眠と覚醒はいつ・どのように現れるのか

長年にわたり日本の睡眠研究を牽引してきた井上昌次郎氏がその著書に記した、興味深い問いかけをご紹介しましょう。
私たちが生まれてくる過程で、眠りはいつ・どこで・どのように、芽生えるのでしょうか? そもそも新しい生命体は、いつ・どこで・どのように、目覚めるのでしょうか?
それは、受精卵でも胚でもなく、個体発生が進んで意識の座である大脳ができた段階だといいます。大脳ができて、まず、「睡眠」が現れるそうです。この睡眠は「動睡眠」と呼ばれており、後の「レム睡眠」です。動睡眠が「大脳の機能を発達させ、そのことによって、意識を覚醒の状態に導きます」(同書)。胎児には、動睡眠が1日の全時間を占める発育段階があるそうです。
大脳が覚醒できるようになると、それに呼応して「静睡眠」(後の「ノンレム睡眠」)が現れるといいます。胎児の発育が進み、覚醒の時間が増えるにつれ、静睡眠の時間も増えていきます。
誕生後、新生児では1日の「約3分の2」が睡眠で、動睡眠(後の「レム睡眠」)と静睡眠(後の「ノンレム睡眠」)の各総量はほぼ同じとのこと。その後成長とともに睡眠の総量は減っていき、思春期を迎える頃に1日の「約3分の1」となり、その20〜25パーセントがレム睡眠、残りがノンレム睡眠となります。つまり、胎児・乳幼児の時期だけ、動睡眠(後の「レム睡眠」)が多いそうです。
動睡眠(後の「レム睡眠」)は、「胎児脳を覚醒へと導く原動力」(同書)。成人になってからその機能は縮小しているものの、依然として大脳を目覚めさせるという役割を演じつづけているといいます。
外からの刺激がなくても、私たちが自発的に目覚められるのは、なぜでしょうか? それは、古くから体内に宿るレム睡眠つまり「目覚めるための眠り」が、まいにち一定間隔で作動してくれるから、というわけです。
『眠る秘訣』の記述をもとに、私たちの生命活動において、睡眠と覚醒がいつ・どのような順番で現れ、どう変化していくのかをご紹介しました。意識はまだ科学的に解明されていませんが、レム睡眠と意識との関係をもっと知りたくなるような、興味深い話題ではないでしょうか。
参考文献
『眠る秘訣』(井上昌次郎/朝日新聞出版/2009年)