SHiRUKOYA

お知らせ・ブログ はじめに

キャッチコピーの事例

「サントリーレッド」のCM(大原麗子さん出演)で使われていたキャッチコピーを考察

キャッチコピーCase No.36対比による効果

キャッチコピーの事例を取り上げる第36回は、かつて大原麗子さんが出演していた「サントリーレッド」のCMで使われていたキャッチコピーです。

すこし愛して、なが~く愛して

コピーライターは、ネット上では、藤井達朗さん、糸井重里さん、村山孝文さんの名前が挙げられていました。しかし、どなたのコピーと言えるのかはわかりません。

私は、糸井重里さんのキャッチコピーだと思っていました。株式会社宣伝会議より出版されている『日本のコピー ベスト500』という本があります。本書の「第十位」にこのキャッチコピーが入っているのですが、そこには糸井重里さんの名前が記されています。そして、このコピーに対する編著者10名の方のコメントが掲載されており、その一人であるコピーライターの仲畑貴志さんが、つぎのようなコメントを寄せています。

「このコマーシャルに出演していた女優が亡くなったとき、テレビや新聞で、さかんにこのコピーが語られた。でも、作者である糸井重里の名に言及することがなく、不満でした。しかし、うまいこというなあ、ホントに。」(『日本のコピー ベスト500』/宣伝会議/2011年)

『日本のコピー ベスト500』の編著は、「安藤隆 一倉宏 岡本欣也 小野田隆雄 児島令子 佐々木宏 澤本嘉光 仲畑貴志 前田知巳 山本高史」(敬称略)です。このような広告界の著名人が編著の本で、糸井重里さんと親交もある同時代のコピーライターである仲畑貴志さんが「作者である糸井重里」と述べています。出版物なので校正が入っていることも考えると、このキャッチコピーのコピーライターは糸井重里さんと言ってもいいのではないかと思うのですが、実際のところはわかりません。

ネット検索では、コピーライターに藤井達朗さんの名前を挙げている方も多数いました。糸井重里さんの名前を挙げている方も多いです。

さて、当コンテンツの目的であるキャッチコピーの事例を集めて、自分なりにキャッチコピーの型や作り方を考える、という本題に入りたいと思います。

このキャッチコピーでは、前後のフレーズに同じ言葉(「愛して」)が置かれています。これは現在でもしばしば見かける人気のパターンですね。「すこし愛して、なが~く愛して」は有名コピーなので、この人気を作った要因の一つなのかもしれません。そんなことを思いました。

もう一つの特徴は、「すこし」と「なが~く」という対比的な構造です。「すこし」と「ながく」は対義語ではないけれど、どちらも程度の違いを表す言葉です。そのためキャッチコピーの前後のフレーズが対比的な印象になり、調和が生まれていると思います。

対比を使うのは、一つのテクニックとして覚えておくと役立つのではないでしょうか。たとえば第32回のキャッチコピーも、(今回とは違いますが)対比をうまく取り入れている事例です。

今回のコピーにおける対比の効果は、「すこし愛して」があることによって、「なが~く愛して」に真心が感じられることではないでしょうか。CMですから、キャッチコピーは、商品(サントリーレッド)を「すこし愛して、なが~く愛して」と言っているわけですよね(?)。もし、「なが~く愛して」とだけ言ったら、たとえCMのドラマ的設定があって、人気俳優さんのイメージが被さっていても、心理的距離が離れている視聴者はその言葉にどこか厚かましさを感じるのではないでしょうか。ところが、前に「すこし愛して」が入ると、控えめな印象が加わって、真心の言葉に聞こえてくる。厚かましさが消えて、心からの願いのように聞こえてくる。前後のフレーズが対比的な構造になっていることによって、このような効果が生まれていると思います。

今回のまとめは、前後のフレーズに同じ言葉を使う、キャッチコピーを対比的な構造にする、対比による効果をうまく取り込む、といったキャッチコピーの作り方・型が考えられるのではないか、です。

初出:2025年03月02日