サッポロ生ビール黒ラベルのキャッチコピー（ブランドメッセージ）を考察

キャッチコピーの事例を取り上げる第8回は、サッポロ生ビール黒ラベルのキャッチコピー（ブランドメッセージ）です。

丸くなるな、星になれ。

このキャッチコピーは、「丸」と「星」という形の対比をうまく利用して、心を引くブランドメッセージに仕立て上げています。サッポロビールといえば星マークですから、まさにサッポロビールならではのメッセージですね。

まず、その意味と効果について考えてみたいと思います。2023年5月現在、サッポロ生ビール黒ラベルのブランドサイト（TVCM「丸くなるな、星になれ。篇」のページ）には以下のようなボディコピーが掲載されています。

絶えず変貌して前に進もう。
いい頃合いで手を打とうとする自分を置き去りに、
追いかけてくる自分に捕まらないように。
堂々と悠々と。
闇があるから光が生まれる。
たとえ太陽が海に溶けても、
空にはやがて星が輝く。

このボディコピーの後に、大きな文字で「丸くなるな、星になれ。」のキャッチコピーが書かれています。これをもとに「丸くなるな、星になれ。」の意味を見ていきたいと思います。

ボディコピーの最初の1〜4行には、「丸くなるな」の意味が具体的に示されています。「絶えず変貌して前に進もう。」というメッセージがそれです。「いい頃合いで手を打とうとする自分」というのは「丸くなる」一例でしょう。そのような丸くなる自分を真っ向から否定はせずに、「置き去りに」「追いかけてくる自分に捕まらないように。」という言葉で、前へ進むことによって越えていこうと示唆しています。ここでは「丸くなる自分」を越えていくべきものとしています。

しかし本来、「丸くなる」という言葉には「成熟」という良い意味があります。その一般的なイメージは、若い頃は「尖っている」が、成長するにつれて角がとれて丸みを帯びてくる、というものでしょう。このような「丸くなっていく」態度は、成長であり、「絶えず変貌して前に進んでいる」姿と捉えられます。つまり、ブランドメッセージと同じ意味を持たせて、「丸くなれ」とも言えるわけです。「丸くなる」にはこのような良い意味があるからこそ、それを否定した「丸くなるな」という言葉は、心に引っかかる効果があるのではないでしょうか。

そして、もう一つ。「丸くなるな」という言葉は、アンチエイジングを求める心理に対して効果的なのだと思います。「丸」と「星（尖っている）」という形の対比があり、それはイメージとしては上述した「成熟の丸み」と「若さの尖り」の対比にもなります。一般的には、若さの尖りがなくなって丸くなっていく成熟の過程こそが成長イメージなわけです。「丸くなるな、星になれ」は、その逆で、丸くなってきているところから尖りを取り戻していくようなイメージです。これはアンチエイジング的な態度です。世の中を見渡せば、アンチエイジングは多くの人を引きつけています。成熟は若さの喪失とともに進み、そこには成長についてまわる様々な喪失感も混じり込んでいます。そのため、アンチエイジング的な意味となる「丸くなるな」は、無意識的にも多くの人を引きつけるのではないでしょうか。

「星になれ」は、私は昭和世代なので昭和の有名な野球漫画タイトル『巨人の星』のような意味、「スター選手」的な意味が浮かんできます。つまり、「その場所で輝ける存在になれ」的なメッセージが自然に浮かびます。（若い世代はこのような意味を思い浮かべないような気がします）

実際どんな意味が込められているのか、ボディコピーから考えてみます。「闇があるから光が生まれる。たとえ太陽が海に溶けても、空にはやがて星が輝く。」と書いてあり、それに「丸くなるな、星になれ」のキャッチコピーが続きます。

このボディコピーから「星になれ」の意味をどう解釈するかは、人によって多少異なるかもしれません。闇と光の対比が強調されていること、また、「星になれ」が命令形であること、そして人を星に喩えていることから、私はつぎのように解釈しました。「たとえ暗闇に覆われたとしても、そこで輝ける存在であれ。」

コピーライターやサッポロビールの方の実際の意図はわかりませんが、このようなことを考えました。

コピーライターは秋山晶さん。

さて、キャッチコピーの作り方や考え方を自分なりに考えていく、というところに戻って終わりたいと思います。

形や言葉の意味などの「対比」を用いてキャッチコピーを作る、という作り方があるのではないか。そしてもう一つ、良い意味をもっている言葉を否定的に使いつつ肯定的な意味を生み出すことによって、人の心に引っかかるような効果を生み出せる可能性があるのではないか。これが今回のまとめです。