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「文化」と「文明」の区別について

『「文化」と「文明」の区別について』メイン画像

「文化」と「文明」という言葉。どちらも知っているけれど、その違いを説明するのはなかなか難しい。辞書を引いても、どこか靄がかかったような理解にとどまっていました。

しかし、国語学の第一人者によって書かれた『日本語の教室』(大野晋・著)を読んだことによって、文化と文明の区別が腑に落ちたので、ご紹介したいと思います。

そのまえに、この区別は普通は明らかに認識されていない、ということが同書に記されていますので、その箇所を引用します。

文化という言葉によって文明を含めて表現するのがむしろ一般的で、文化と文明の区別は普通は明らかに認識されていません。しかし文化と文明を区別することは非常に大事です。

『日本語の教室』(大野晋/岩波書店/2002年9月)

この記述のあと、日本文化の代表である「わび」「さび」についての話が続きます。ここから引用したいところですが、それだと長くなりすぎるので割愛します。かいつまんで紹介すると、日本の地球上の位置や気候、春夏秋冬などに触れ、「日本という自然からつくり出されたものが「わび」「さび」」であり、これは他の国に持って行くことはできない、このようなことが述べられています。

そして、つぎのように記されています。

われわれが日本文化と言っているものは、このように実は日本の地球上の位置から生じる地方的な一つの特性にすぎない。このことは和辻哲郎の『風土』から学びました。

『日本語の教室』(大野晋/岩波書店/2002年9月)

「文明を文化から区別することは伊東俊太郎先生から学びました。」(同書)と述べて、その説明がつぎのように続きます。

「文化とは地球上の位置が持つ自然に伴って生じる地方性である。それに対して、文明とは、広く生産に関係する技術、精神世界に関する思考の体系。世界中どこにでも持って行くことができ、広がって行くことができる。世界に共通するもの、技術と論理、それが文明です。」

『日本語の教室』(大野晋/岩波書店/2002年9月)

『日本語の教室』では、このように文化と文明を区別し、「日本の言葉と文明」をテーマにした論考を展開しています。

ただし、先に引用したように、「文化という言葉によって文明を含めて表現するのがむしろ一般的……」(同書)ということを考えますと、ごく普通の会話や文章においては文化と文明を区別する必要はないような気もします。しかし今後、日本や世界の歴史、文化や文明について考えるときなど、この区別を思い出すことによって見えてくるものもあるかもしれない。そんなふうに思っています。

なお、『日本語の教室』の書評・書籍紹介はこちらです。

初出:2025年01月14日